ハリウッドに挑戦する芦名佑介氏から学んだ、圧倒的になるためのエッセンス

 芦名佑介という、ハリウッドスターを目指している人がいる。

 私は、

・転職で年収17倍!「能力ではなく可能性を信じる」26歳アメフト元日本代表営業マンの仕事哲学 https://sales.typemag.jp/article/4474

 という、彼を取り上げたキャッチーなインタビュー記事でその存在を知った。

 記事にある通り、彼は慶応アメフト部の主将をして、U-19日本代表でもキャプテンを務め、新卒で電通のコピーライターになり、1年余りで転職してプルデンシャル生命保険という年収が0から数億円まで差がつく完全歩合制の会社でトップ営業マンになり、その後トップマネージャーをしていた26歳だ。
 要するに若くして異なる様々な分野でかなりすごい成果を残してきた人物である。
自分より一回りも二回りもすごい実績を持つ人だと思って、ぜひ会ってみたいと友人のつてをたどってみたところ、運よく繋がることができ、昨年末に初めてお会いした。

 すると彼は会社をもう辞めて、今はハリウッドを目指し、舞台の役を1つもぎ取って一時帰国中だという。
 その一見突拍子もない意思決定の裏には、「とにかくカッコよくなりたい」という、彼の中でずっと変わらない一貫性があった。
 しかもただの無鉄砲な若者なわけではなく、「起業しても孫正義ホリエモンに勝てるとは思えないし、勝ちたいとも思わないが、自分のオーラと雰囲気と表現力なら世界一になりうる」という勝算を持ち、自分のこれまでの経歴や価値観はどういう層にウケるかを考え抜いて、ファンを広げていくためのマーケティングを論理的に考えていた。
 そう、芦名氏は、インタビュー記事で私が受けた印象よりもはるかに頭の回転が速く、ロジカルだった。私がテンパってしどろもどろになりながらとりとめのない相談をしても、5秒ほど考えて「理由は2つあります」と答えてくれた。

 彼は非常にクレバーに合理性を突き詰めつつ、それでいて最も重要な意思決定の場面では論理よりもロマンを重んずる価値観を持っていたということだ。

 それを私は「カッコいい」と思ったし、目標にすべき人物が見つかったと感じた。まもなくハリウッドに戻るというから焦ったが、幸い彼が探している分野の人をたまたま私が紹介できたので、それにかこつけて彼が今日1月14日にハリウッドに戻るまでの僅かな期間に計6回も会うことになって学べるだけ学ばせてもらった。

 芦名氏は、並はずれて素直で、それゆえとてつもない学習能力を有している。私は初めて会った際、芦名氏の今後のハリウッドでのブランディングに関して、田舎娘から成り上がったテイラー・スウィフトを参考にしたらどうか、と軽く提案した。彼はその時テイラーについて何も知らなかった。だが、8日後に再会すると、同席した別の人に対して、「テイラー・スウィフトが出てるこのCMの、こういう部分ってグッとくるじゃないですか。僕もそういう感じにできたらと思うんです」と、私よりはるかに詳しく解説できるほどになっていた。

 彼と話していると、「なんで?」「それって何?」と妥協なく質問してくるので、私は自分の持っている知識がすぐに全部搾り取られてしまうんじゃないかという緊張感を味わう。それと同時に、自分の中で曖昧なままになっている知識が、急ピッチで体系化されていくのも体感できるのだ。簡単に言うと、彼と話していると、自分の意見の中で曖昧なものとはっきりしたものが分別されて、頭がよくなる。だから、自分の持っているいろいろな情報を彼に伝えたくなる。

 その素直さという武器は、芦名氏に「能力よりも可能性を信じる」という価値観をもたらしていた。今の能力で何ができる/できないとか向いてる/向いてないと考えるのは無意味だと彼は主張した。

 ハリウッドスターになるというと、じゃあ演技できるのか? 英語は話せるのか? という現実的な疑問がすぐ湧き上がるが、今能力がなくてできないのは当たり前だ。U-19日本代表のキャプテンを務めるにまでいたったアメフトだって、最初はぜんぜん能力がなかった。でも将来は絶対出来るようになるという可能性を信じていたし、そのために徹底的に素直にふるまったから、やり遂げられた。

 彼はそのスタンスをあらゆる場面で徹底的に貫いてきたから、勉強・アメフト・コピーライティング・営業・マネジメントと全然関係ないいろんな分野で成功してきたし、きっとこれからも、何をやっても相当すごいところまでうまくいくのだろう。


 ちょうど、芦名氏と出会う少し前から、私は素直さについて考え始めていた。

 大学2年生ぐらいまでの私は極端にひねくれていた。他人から学ぶことを恥だと思い、知らないことも知っている風を装い、メディアから得た知識に傾倒していた。
 だが、大学3年生になって瀧本ゼミという場で自分より知識量は少ないが論理的に鋭く話す人々に出会ったこと、競技ダンスで勝つ秘訣はうまい先輩に気に入られて教えてもらうことだと気づいてから、少しずつ変わりだした。今でも素直になりきれていないために損をしたり、注意を受けることは多いが、少なくとも「他者からいかに良質なフィードバックをたくさん得られるか」つまり応援や指導といった形で投資されるかが、成果を上げるのに最重要だという価値観を持つようになった。

 しかし、「能力よりも可能性を信じる」という域には、認識の段階にすら達していなかった。
 色々な分野でそこそこの成果を上げても、もっとすごい人を探してしまい、自信が持てない。「向いてない」「能力がない」という他人からの言葉に、むっとして傷つくけれど、うまく自分の中で処理しきれない。
 そういうことにずっと悩まされていた私は、「ああそうか自分の能力、実績じゃなくてこれからの可能性に自信を持てばいいのか」と、それを体現している人物に会って漸く腑に落ちた。

 私の価値観が変わるターニングポイントを作ってくれた芦名氏に、改めてこの場を借りて感謝したい。
 彼が次に日本に帰って来る時には、自分の可能性を開花させられた私の姿を見せたい、と思う。


芦名氏と有楽町の地下鉄にて撮影


くまりん/大熊将八(@Shoeyeahok)